こっちをみて ▼ぜぜ:井上幸樹×山吹楓有

「…馬鹿か」

飲み物をかかえて、自分の部屋に戻ってきた幸樹は溜息をついた。

楓有が机に突っ伏して寝ていた。

無防備すぎかよ。
たまに一緒にいられるかと思うと、すぐこれ。
今日から期末テスト週間に入り、しばらく楓有の大好きな部活は休み。ならば、いっしょに勉強しようと前々から約束をして、幸樹の部屋へ来たのだった。カバンをおろして、机に向い合って座って、勉強道具をならべて。「…なにか飲む?」「エッ、いいよ!?なくて大丈夫だよ!!?」「…俺が喉乾いたから。麦茶か、ポカリしかないんだけど、どっちがいい?」「ハ、ハイ…麦茶で…」それで戻ってきたら、何?こんな短時間に眠れるか、普通?
あのうるさい妹がこの部屋に来たら、どう言い訳をしよう。
いや、言い訳なんてする必要ない。だってまだ何もしていない。
勉強もしていないし、手も出していない。
こいつが勝手に寝てるだけ。

幸樹は、はぁ、と改めて溜息をつく。

抱えていた飲み物を机におろして、机を挟んで楓有の向い側に腰をおろした。
部活で疲れてたんだろう。
部活が好き、楽しいという話の合間に、昨日は洗濯物が多かっただとか、帰りがちょっと遅かっただとか、言っていたことは、話半分で聞いていた幸樹だって覚えている。
疲れているはずなのに、今日の約束を無しにしたいとは言いださないのは、それだけ自分に会いたいと思ってくれたからだと、自惚れた。

…けれど、寝られたら、意味がない。

指の背で頬をなぞると、夢の中にいるまま、楓有が笑った。
小さな吐息がこぼれて、じわじわと胸に広がっていく。
俺に下心がないとでも思っているのか。こいつ。
このまま寝かせてやりたい気持ちは、確かにある。
寝顔をながめていたい気持ちもある。
…でも、これだけじゃ足りない。


「…早く、目、覚まして」


馬鹿みたいに笑って、俺を見てろよ。
いつもみたいに。


update 2015/10/06 あおいあかね

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