うつくしいひと ▼ロゼ西:一崎万里×アルカナ・シュブラン

彼女のペースにあわせてやれよ、と幼馴染の虎丸は言う。
そんなことを考えながら誰かを相手にできる人間がいるのだろうか、と万里は思う。
自分は人間ではないけれど、皆、きっとそこまでかわらない筈だ。


頬にあたる風がうそ寒くて、夏ももう終わりなのだな、と思った。
隣を歩いている背の低い彼女がそっと身を震わせたのを感じて、万里はゆっくりと顔を向けた。

「さむくなってきたね」

こくん、と頷くさまは、彼女を年齢よりもずっと幼く見せる。
相変わらずの素直さに、おもわず万里が頬を緩めると、つられてアルカナが笑う。

…あたたかそう。

ふと、そう思った。少なくとも、もともと体温のひくい自分よりは。
アルカナが寒がっているのを分かっているのに、一度そう思うと、我慢ができなくなって、すぐに実行にうつしてしまう。
万里は、彼女のちいさな手をとって、その小さな指に自分の指を絡ませた。

途端、アルカナの頬が朱に染まる。

ふるっと体をふるわせて、おずおずと万里を見上げる緑の瞳がうつくしい。
この小さな指先も、ふわふわゆれる明るい髪も、白い肌も、万里は気にいっていた。
特にくるくる変わる表情は見ていて飽きない。
その表情を変えさせているのが、自分だと思うと、なおさらだった。

頬をあからめて、とまいどいながら、それでも万里の手を繋ぎ返してくれるちいさなてのひら。
あたたかなゆびさき。
自分の心をつなぎとめておかないひと。
万里が微笑むと、頬をあからめたまま、アルカナも笑った。

寒いのは苦手だけれど、彼女がいてくれたら、きっと平気だろうと万里は思う。
繋いだ手すら、こんなにあたたかいのだから、抱きしめたら、もっとあたたかくなるはずだ。
どんな反応をするだろう?きっと、目をみひらいてから、頬をそめて、うつむいて。おずおずと、万里の胸に顔をうずめてから、そっと抱き返してくれるのではないだろうか。
その熱を想って、万里は頬を緩めた。


update 2015/10/06 あおいあかね

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